本記事は eeic (東京大学工学部電気電子・電子情報工学科) Advent Calendar 2019 - Qiita 5日目の記事です。(投稿日は2020年12月13日ですが、これは埋まっていないことが気になって投稿しただけであり、遅刻した訳ではありません。)
川添愛とは言語学者であり、自然言語処理・情報化学の研究者でもあり、そして作家である。
作品には、
・『精霊の箱 チューリングマシンをめぐる冒険』
・『自動人形(オートマトン)の城 人工知能の意図理解をめぐる物語』
・『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」』
・『コンピュータ、どうやってつくったんですか? はじめて学ぶコンピュータの歴史としくみ』
・『数の女王』
・『聖者のかけら』
・『ヒトの言葉 機械の言葉 「人工知能と話す」以前の言語学』
がある。もっとあるかも知れない。私が読んだ本は上から4冊までであり、5〜7冊目は入手済みor注文済みである。
著者の経歴と題名からもにじみ出ているが、テーマは、言語とは何か、計算とは何かから始まり、現代の機械学習の話までといった言語と情報についての広い範囲。それぞれの世界観の小説であり、専門書ではないので言語学や情報学を学んだ訳でなくても楽しめる構成だと思う。
しかし、それはそれとして情報系の学生が読めば、伏線まで回収して楽しめる本だと思う。逆に言えば、終盤が読めてしまうかも知れないとも言えるが、そもそもほとんどの推理小説は犯人が逮捕されるし、冒険譚は無事に帰還できるので大した問題でもないだろう。
装丁や扱うテーマがかっこいい*1。魔法使いが出てきたり、呪文が出てきたり、そしてその呪文が幾何学やかなり基本的な概念のみからなるそぎ落とされた美をなし、それゆえに自然言語にとらわれない「言語」や本質的には0と1でさえある必要もない2種類の存在だけで構築できる「情報」の核心を突いているようにも思える*2。
話の内容について詳しく述べるとネタバレになってしまうので是非読んで欲しい。前述の通り情報系の知識がなくても読めるので学部2年のEEIC民が読んでもいいし、博士号(情報理工学)を持っているEEIC古参が読んでもいい本だと思う。小説の文章も、ストレスなく読める*3。まだ全部を読めていない私がいうのもなんだが、新作が読みたいので、みんなが買ってくれると多分新作が出る確率が上がるので嬉しい。よろしく。
軽いネタバレになってしまうのを承知で一冊だけ感想を書く。
『白と黒のとびら オートマトンと形式言語をめぐる冒険』は題名の通り、情報の分野でも扱われたオートマトンと形式言語を扱う話であり、複雑かつ非直感的な処理が出てくる一方で知識をあまり必要としない初心者向けの本である。
魔法や神話が存在する異世界で、古代言語の謎を師匠から学ぶ弟子の話である。この形式の他の本では弟子が誤りを繰り返しつつ話が進み、弟子の愚かさに不快な疲弊をよく感じるのだが、本書では弟子の思考や誤る原因を辿りつつ進むため(そして私の理解度がその弟子程度ため?)不快感はない。
世界観の作り込みがちょうど良く、異世界でありすぎて現実感がなくなることはない一方で、不思議な世界である雰囲気が感じられる。
また、多くの話が非常に美しく絡み合いつつ、話の進行速度も非常に良い。
東大電気系の計算論を理解していれば、どの話が"計算"と関係しているかがわかって"しまう"が、専門単語と話が優雅に対応している一方で世界観に合致している。
『白と黒のとびら』の方がおすすめだけど、言語の理論的(抽象的)な話よりも人間と言語の戦いを知りたいなら『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」』かな。