不規則な読み方が行われる言語名

日本語(にほんご)

日本語は文字の種類が多いが、ひらがなとカタカナはほとんど*1そのまま読めば良く、漢字も「漢」が「かん」で「字」が「じ」だと知っていれば単に「かんじ」と読めば良い。そのため、文字の種類が多くて困れど、英語のように綴りをみても発音が不明な問題は少ない。

 

「日本」を「にほん」「にっぽん」と読むけれど、そう読むのは非常に不規則な読み方である。外国語を学ぼうとしてまずその国名や言語名が特殊な読み方であると、めんどくさいだろうなあと思った。*2

日本という単語は、「日」と「本」の2文字で構成される。共に常用漢字であり、画数もそれほど多くない。多くの言語ではアルファベットは100個程度だし、日本語でもよく使う文字300選くらいには入りそうな文字で構成されているのはありがたい。しかしその読みは特殊である。

まずは常用漢字表をみて見よう。

読み:「ニチ」「ジツ」「ひ」「か」

特殊な読み方:「明日」など (日本はない)

読み:「ホン」「もと」

これらの読みでは日本は「にちほん」「にちもと」「じつほん」「じつもと」「ひほん」「ひもと」「かほん」「かもと」の8通りが想像できるが、にほんもにっぽんもない。

つまり日本を「にほん」と読む場合にも「にっぽん」と読む場合にも常用漢字"表"の読み方を外れている*3。つまり特殊な読み方である。

 

ちなみに

常用漢字表 表の見方及び使い方の11

他の字又は語と結び付く場合に音韻上の変化を起こす次のような類は,音訓欄又は備考欄に示しておいたが,全ての例を尽くしているわけではない。

と書いてあるため、「にち」+「ほん」が促音化によって「にっ」+「ほん」になり、さらに連濁によって「にっ」+「ぽん」となるために「にっぽん」と読めるのである。

 

皆さんは促音化や連濁について普段から考えずに日本を「にっぽん」っと読むと思うが、外国語として学んでいるときにはブチギレ必至と思う。どうして国名にこんな不規則な読みを採用してしまったのか?

 

ちなみに「にほん」という読み方は常用漢字表の読み方には含まれないと思っている。もしかしたら「にち」→「に」も音韻上の変化かも知れないが、常用漢字表の付表に「息吹/いぶき」が含まれるなら「日本/にほん」も含めるべきだと思うからである。このように、日本語で「日本語」を読むときの発音は非常に特殊だと思う。

 

ドイツ語(deutsche Sprache)

ドイツ語は比較的綴りから発音がわかりやすい。英語と似ているラテン系のアルファベットを用いているが、母音は「a/あ」「e/え」「i/い」「o/お」「u/う」とローマ字読みでほとんど良い。子音も「後に母音がない場合には濁らない*4」「sは母音が来るなら濁る」みたいな少し面倒な規則はあるけれど、規則通りである。ということでdeutsche Spracheを見ていこう。

 

「d/だ行」(簡単な規則)

eu/おい」(面倒な母音の規則)

「tsch/ちゅ行」(面倒な子音の規則)

「e/え」(簡単な規則)

「Sp/しゅぷ」(面倒な子音の規則)

「r/喉を鳴らすような、ら行」(ローマ字とは異なるが簡単な規則)

「ch/は行」(面倒な子音の規則)

「e/え」(簡単な規則)

 

である。面倒な規則が多い。

許されるのは、エスツェットがないのとウムラウトがないから打ちやすいくらい。

 

読み方は特殊ではないかも知れないが、特徴が含まれる例

スペイン語(español)

 スペイン語以外ではほぼ見ない「ñ」(エニェ)を含む*5

フランス語(français)

 特徴的な「ç」(セディーユ)を含む。

 

その他

ちなみに連濁は面白く、モンロチョウとオロワシの話が好きである。モンシロチョウは「モン」+「シロ」+「チョウ」である。見たことがない人に説明すると、モンシロチョウとは羽根の中央に黒い紋がついている、全体的に白い蝶である。つまり、モンシロチョウの「シロ」成分は「モン」ではなく「チョウ」全体*6である。係り受けの優先順位を表すと

 

モンシロチョウ=モン+(シロ+チョウ)

 

である。

一方でオジロワシは、「オ」+「ジロ」+「ワシ」であり、ジロの範囲は「オ」だけである*7。同様に係り受けの優先順位を表すと

 

オジロワシ=(オ+ジロ)+ワシ

 

である。

 

連濁には「枝分かれ制約」があり、A+B+CのBが濁るかも知れないとき、A+B+CがA+(B+C)ならA+B+Cと濁らず、(A+B)+Cなら(A+B゛)+Cと濁る。つまり、モンシロチョウはモン+濁らないシロ+チョウ=モンシロチョウで、オジロワシはオ+濁ったシロ+ワシ=オジロワシである。

 

逆に言えば、この枝分かれ制約を知っていれば、モンシロチョウは紋が白いチョウではなく、全体的に白いけど紋があるチョウだとわかる。もしも紋が白いチョウなら、モンロチョウと濁るはずだからである(背理法)。同様にオジロワシはオがある白い鷲でないわかる。

 

 

ということで、日本語を「にほんご」「にっぽんご」と読むにはたくさんの規則が必要だなあと思った記事でした。

*1:「は」を「わ」と読む場合などの例外がある。この規則は嫌い。

*2:まあ、教科書はアメリカではJapaneseとして書かれた表紙なんだろうけど。

*3:他の字又は語と結び付く場合に音韻上の変化を起こす次のような類は,音訓欄又 は備考欄に示しておいたが,全ての例を尽くしているわけではない。と表の使い方11に書いてあるため、"表"と書いた

*4:bがpになるような濁りが薄くなる場合もある

*5:ガリシア語でも使うらしいけどスペインの言語だし

*6:紋を含まないが、全体的に白いと言いたい

*7:白い部分には白眼の部分などもあるかも知れないが、オジロワシ命名としてはオが白いから名付けられたので