オークション理論を身近に使おう

皆さんは、普段の支払額に不満はありませんか?

転売ヤーにキレたりしていませんか?

そういう人たちと戦うのは難しいけど、身近な決済に自作アルゴリズムを取り入れてて見ませんか?*1

 

2020年のノーベル経済学賞*2は、ポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンがオークション理論を改善して新しいオークション形式を提案(発明)したから受賞って感じ。2007年の経済学賞はメカニズムデザインだし、1996年の経済学賞の受賞者の名前がついたヴィックリーオークションという二位の価格で一位が購入するオークションもある。でも私はその割にオークションについて考えてこなかった*3

 

最適*4な支払いには、例えばVickrey–Clarke–Groves mechanism*5(以下、VCGメカニズム)がある。しかしいきなりVCGメカニズムではオークション理論初心者には難しいと思うので、比較的簡単なヴィックリーオークションを説明する*6

 

ヴィックリーオークションとは、2位の価格*7で1位の人*8が落札できるオークションである*9。最高額を提示した人がその価格で買うなら

A「1000円!」

B「1100円!」

A「1200円!」

B「1250円!」

A「1300円!」

司会者「落札!」

無駄な段階が生まれる*10

しかもAは「1251円って言っておけば良かったかな?」と思う。

しかし2位の提示した価格で1位が買うなら

A「1300円!」

B「1250円!」

司会者「Aが1250円で落札!」

と一度で決定される。自分が商品に感じる価値を言えば「最適」となる。身近な例ではインターネットの検索連動型広告にはこの方式が採用されている*11。高速に入札者が決まる上、妨害行為が行えない*12

VCGメカニズムは、1個の商品だけでなく、複数の商品を考える。そして、得られる効用(感じる価値、幸せ)が各品物の価値の和ではない場合について考える。焚き火をX、生肉をYとしよう。それぞれが感じる価値は以下のようになる*13

  X(焚き火) Y(生肉) X+Yのセット
A(焼肉がしたい) 0円 0円 1000円
B(焚き火が見たい) 800円 0円 800円
C(生肉を食べたい) 0円 500円 500円

XとYを持っている人は別々にBとCに売れば1300円得られ、これが最も合計金額が高い。しかしVCGメカニズムの支払額はBが800円Cが500円はとならない!

 

VCGメカニズムは、その人が参加してなかったと仮定した場合の総落札額から、その人以外が今回落札した総落札額を引いた値を支払う。BがいなければAに売って1000円だったが、Bがいると残り(つまりY)の総落札額は500円だがので、Bの支払額は500円である。同様にCの支払額は200円である。その人により残りの価値が減るので、これを「迷惑料」などと呼ぶ。

 

しかし実はこの方式には欠点がある。まずは品物が多い場合に組合せ爆発が生じて提示する額の個数が増えすぎること。そしてどう組み合わせたら総落札額が最大になるかの探索も組合せ爆発が生じること。さらに、架空名義入札による支払額の削減が可能なことがある。例えば、実はBとCは同一人物で、実際には下の表のような状態だったとする。

  X(焚き火) Y(生肉) X+Yのセット
A(焼肉がしたい) 0円 0円 1000円
B(焼肉がしたい) 800円 500円 1300円

 

この場合、Bの支払額は1300円となり、先ほどのBとCの総落札額の700円より高い。そのため、Bは架空名義によって先ほどの700円で入札してしまう。この脆弱性は「架空名義入札が可能な場合、1名義で真の額を申告することが支配戦略となる、均衡でパレート効率的な割当てを実現するメカニズムは存在しない」という定理に保証されている。他にも様々な欠点・脆弱性がある。オークションは難しい。今までの話は私的価値という個人によって大きく異なる価値だったが、地下資源などは皆が同じくらいの価値を見いだす。このときその価値は共通価値となり、それについてのオークション理論が2020年のノーベル経済学賞である。実はこのノーベル経済学賞を受賞した研究は基礎研究から始まった。時が経つにつれオークションは社会的に役立つようになり、電波オークションにも使われた。

 

ここからはまた別の話をします。

 

皆さんは、飲み放題に納得していますか? あまり飲まない人にも、飲み放題の料金を払わせていませんか? そこに疑問を持った筆者が、規則を作ってみた。

1 定義

放題制とは、注文量によらず支払い料が一定である制度をいう
従量制とは、注文量に応じて支払額が変化する制度をいう
2 コース選定の流れ

主催者は選択可能なコースを列挙し、記入締切と共に候補者に通知する
候補者は、記入締切までに主催者から通知された選択可能な各コースに対する非負の金額を主催者に通知する*14
各コースに設定する金額は支払い可能額を超えてはならない
全額日本円での支払いを含んでいれば、各コースに設定する金額は主催者への送金手段別に設定しても良い
記入締切までに通知されなかった金額は、記入締切以後に主催者が決めて良い
候補者は不参加を選択でき、その場合は候補者全員に対して不参加である旨を通知する
主催者は参加する候補者から通知された金額をコース毎に合計し、そこから当該コース金額を引いた金額が最大となるコースを選択し、参加する候補者に通知する
上記通知をもって候補者は参加者となり、参加が決定される

3-a 放題制分の支払い
参加者は、選ばれた放題制のコースに設定した金額を主催者に支払う

主催者は、参加費の支払い額から当該コース金額を引いた金額(以下、余剰)を個人の最大支払額を最小化するように還付する*15
最大支払額が等しい範囲において主催者は自由に余剰を分配してよい
主催者は、参加費と余剰の還付予定額の差額を参加者に通知して支払われることで、参加費の支払いと参加費の余剰の分配を統合してよい
以上の処理が終了してから、コースを開始する

3-b 従量制分の支払い

各自が注文前に注文内容を主催者に伝える
主催者は会計時にそれまでの合計注文額を各参加者に通知し、参加者はそれを支払う

 

上記規則での支払い例を考えてみる。
2000円の飲み放題がある場合、例えば表3、表4のような支払いが行われる。表5において、Dが10000円分飲んだ場合にはDが10000円払う。実際に飲む量を過小評価せずに5000円以上を設定していれば、支払金額は表4のように50004円となる。このように、従量制の場合の支払額を個人の注文分とすることで、放題制のコースに設定する金額を妥当に上げる。

参加者 A B C D 合計
設定した金額 0円 1000円 2000円 3000円 6000円(α)
飲み放題の総額 8000円 8000円(β)
コース α < βより従量制  
支払額 注文分 注文分 注文分 注文分 注文分

表3 支払い例1

 

参加者 A B C D 合計
設定した金額 0円 1000円 2000円 10000円 13000円(α)
飲み放題の総額 8000円 8000円(β)
コース β < αより放題制  
支払額 0円 1000円 2000円 5000円 8000円
表4 支払い例2

明示されていないが、主催者は自身の設定金額を自由に変えられる特権も持つ。そのため、他の参加者が表4のように金額を設定した場合、表5のように飲み放題にただ乗りできる。この場合、主催者は皆が定価よりも価値を感じる店を提案した報酬として受け取る。

 

Dが実際に飲む量が6000円分である場合にそれを過大評価して10000円を設定した場合には、表5の通りの7000円を支払う。Dは6000円を設定していれば、例えば主催者が飲み放題に感じる価値が1000円であった場合、主催者がどちらのコースにしても任意の参加者の支払額は変わらず、Dの支払額は6000円になるだろう。このように、放題制の場合に主催者がただ乗りすることを嫌うならば、放題制のコースに設定する金額を妥当に下げる効果もある。

参加者 A B C D 主催者 合計
設定した金額 0円 1000円 2000円 10000円 0円 13000円(α)
飲み放題の総額 10000円 10000円(β)
コース β < αより放題制  
支払額 0円 1000円 2000円 7000円 0円 10000円

表5 主催者がただ乗りする例

 

 

 

いかがでしたか?

オークション理論を調べてみましたがよく分かりませんでした!

これからの経済学に期待です!

 

[1] 完璧なオークションを求めて|安田 洋祐|note https://note.com/yagena/n/n0490eb65f0f8

[2] オークションの仕組み https://www.slideshare.net/YosukeYasuda1/ss-198857941

[3] メカニズムデザインと最適化 http://www.edu.kobe-u.ac.jp/istc-tamlab/cspsat/pdf-open/cspsat2_seminar06_yokoo.pdf

*1:どうせ再発明だろうとわかりながらも、作るのが楽しいとか、悪用されるのを見て楽しいとか色々あるよ。楽しみ方は人それぞれで自由。

*2:ノーベル経済学賞だけは他のノーベル賞とは大きく異なる。例えば他の賞はノーベル基金からの賞金なので日本では所得税がかからないが、スウェーデン国立銀行からの賞金なので日本では所得税がかかる。

*3:価格競争が起きた結果の店で買うとか、安い店で買うとかはするけどね

*4:オークション理論での最適には色んな定義がある。色んな人が色んな最適を定義して、その最適を満たす手法を提案する。

*5:日本語のWikipediaがないぞ!

*6:私はオークション理論初心者です

*7:提示された金額の中で2番目に高い金額

*8:1番目に高い金額を提示した人

*9:雑に説明します。長いと読む気が起きないので

*10:上記は2往復程度で済んでいるが、1円単位なら150往復程度になる

*11:もう少し複雑で、クリック率なども考慮されるとか応用されている。詳しくは調べてね。

*12:他社の入札額を知るための検索とかが行われていた。詳しくは調べてね。

*13:実際にはBに転売できるからXを500円でAは買いたいかも知れないが、今回はわかりやすさのため無視する

*14:どの程度の効用を得られるのかを記入すると意図されている

*15:本処理は主催者の善意によって行われる